<香り>はなぜ脳に効くのか(塩田清二)の書評・感想

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<香り>はなぜ脳に効くのか―アロマセラピーと先端医療 (NHK出版新書 385)

本書は、神経科学の専門家であり、日本アロマセラピー学会理事長でもある著者が、香りに関するここ十数年の研究の成果や、あるいはアロマセラピーに対する世界の流れなどを紹介しながら、アロマセラピーが特に医療分野に関して持つ可能性について書かれている作品です。
日本では、アロマセラピーというのは、リラクゼーションや美容と言ったものと結びついて捉えられていますが、欧米各国では既に医療の一部として捉えられているようです。フランスやベルギーでは長らく医療行為としてアロマセラピーが認められているようです。また現在、アロマセラピーは、現代西洋医学が手の届かない部分を補完するための代替補完医療として注目を集めているんだそうです。

『アロマセラピーが医療分野で注目されているのは、実際の医療現場で、現代西洋医学では治りにくい、あるいは、予防しにくい疾患や症状に効果・効能が見られるからです』

『薬物療法で十分な効果が得られない場合や、強い副作用で継続投与できない人たちが大勢います。複数の疾患があると、薬剤の飲み合わせの関係から服用できない薬が出てくる場合もあります。そのため、アロマセラピーの活用が内科疾患においても、代替補完医療として導入され始めています』

『医療が進歩すればするほどに、難治性の病気や緩和困難な症状の存在が浮き彫りになっています。アロマセラピー、特に医療を目的としたメディカルアロマセラピーが、こうした疾患や症状に対しての代替補完医療として、実際に効果を上げ、医療機関での導入が世界中で進んでいます』

これまでは、「死に直結していない分野だった」という理由で、香りが人体に及ぼす影響の研究が医療分野で進んでいませんでした。しかし今では、がん・認知症・妊娠している女性の症状など、様々な場面で、香りによる影響が有効であると示されているようです。
香りによる代替補完医療の最大のメリットは、ほんの僅かな分量を摂取するだけで効果がある、という点です。特にこれは、妊娠している女性にはより有効でしょう。現代西洋医学では手の届かない部分を補完する役割として、アロマセラピーが現実に導入されているというのは、全然知らない話だったので、なるほどという感じでした。
現代西洋医学は、様々な装置や技術の開発により、様々なデータが「見える」ようになりました。それによって、あらたな治療法が開発されたり、今までとは違ったアプローチが出来たりと、医学は進歩してきました。
しかし著者は、そうやって「見える」ようになったことが、別の問題を引き起こしていると書きます。

『しかし、この「見える」ようになったことが別の問題を引き起こしているようにも思えます。というのも「見える」がゆえに、医療者は幹部を治療することのみに躍起になり、患者さん全体を観察することがおざなりになっているのでは、と危惧されるからです。』

そこで著者は、<治す>ための現代西洋医学とは別に、<緩和する>ための代替補完医療としてのアロマセラピーの存在をもっと認知させたいと、本書を執筆したのだそうです。
本書を読んで一番驚いたのは、<香り>の研究の歴史の浅さです。

『<香り>が脳におよぼす作用のメカニズムについては、ようやく入り口に立ったところともいえます。1991年、リチャード・アクセルとリンダ・バックが嗅覚受容体遺伝子を発見し、2004年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。ここから嗅覚と脳の関係の研究が急速に進み始めましたが、<香り>の脳におけるメカニズムはまだまだ解明されていないといっていいかもしれません』

感想

本書は全体的には、かなり専門的というか、結構難しい話が出てきます。論文チックというか、結構「マジ」な作品です。とはいえ、<香り>が医療として使われている、ということを知っている人は、とても少ないのではないかと思います。特に、がんや認知症や妊婦の症状など、かなり大多数の人に関わるようなことに関して、<香り>は有効であると本書は説いています。本書を読んで、まず<香り>が人体に与える影響を知ること、そして具体的にどんな場合にどんなものが有効であるのか知ること。それは、現実に今病と闘っている人には必要な知識だと思うし、そうでない人にも、将来的に関わってくる知識ではないかと思います。そういう意味で、本書は知識として知っておくべき内容がふんだんに盛り込まれているように思いました。ちょっと難しい話が出てくるんでハードルは高いかもしれませんが、読んでみる価値はあると思います。

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