少女は卒業しない(朝井リョウ)の書評・感想

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少女は卒業しない (集英社文芸単行本)

本書は、廃校が決まり、卒業式の翌日に校舎が取り壊されることが決まっているとある地方の県立高校。その卒業式の一日を、七人の少女の視点で描いた作品です。
やっぱり朝井リョウは凄い。これまで朝井リョウの作品を結構読んできたので、もうその凄さには驚かなくなった。イチローが◯年連続で200本安打とか聞いても、「すげぇなぁ」って思うけどそれ以上に「やっぱり」って思うのと似てる。僕の中で朝井リョウはそれぐらい、安定して高いところにい続けている作家だ。
ホントに凄いなと思う。
本書は、デビュー作の「桐島、部活辞めるってよ」以来の、全編高校生が主人公の作品です。そして「桐島~」との最大の違いは、主人公が全員女子ということ。
僕は男なんで、もちろん女子的な感覚がきちんと分かるわけじゃない。じゃないけどやっぱり、朝井リョウの女性の描写は凄いなと思う。ああ、女子だなぁっていう感じが凄くする。男とは全然違う感覚で生きているように見える女子の、その「全然違う」感じが、少なくとも男にはよく伝わってくる。女性がこの作品を読んでどう感じるかは分からないけど、でも女性にしても、この作品の主人公たちのどこかに自分の何かが溶け込んでいるように感じられるのではないかと思う。
女子を描いているかどうかに限らず、やっぱり相変わらず朝井リョウの人物描写は素晴らしい。
これまでも「桐島、部活辞めるってよ」「星やどりの声」「もういちど生まれる」の感想の中で、朝井リョウの人物の描き方・切り取り方の凄さみたいなものを自分なりの言葉で書いてきたつもりだけど、同じ事を書いても仕方がないのでまた違うことを頑張って書いてみようと思う。
朝井リョウは、五感をフルに使った『世界の捉え方』が絶妙だ。
昆虫は、眼を持っているけど、人間とはまったく違った見え方をしている、と言われる。目が捉える光の種類が違う(赤外線とか紫外線とか、そういうものを捉えているんだったかな?)から、僕らが目で見ている光景と、昆虫が眼で見ている光景は恐らく全然違ったものだろうと言われている。
朝井リョウは世界を、僕らとは違った『眼』で見ているのかな、という気がする。
それは『眼』だけではない。『耳』も『鼻』も『皮膚』も『舌』も、全部僕らとは違った形でこの世界を捉えているんじゃないかという気がする。
そしてその『世界の捉え方』を、登場人物たちの個性に落としこむことが本当に巧い。その場面でどんな音を捉えるか、どんな光景を捉えるか、どんな皮膚感覚を捉えるか、その選択。それらの絶妙な組み合わせが、登場人物たちの個性をこれでもかと際立たせる。
読んでいる方からすると、夢から覚めた直後みたいな感じかもしれない。本書で描かれる五感は、読者にもその残滓が伝わってくる。直接見たわけでも聞いたわけでも触れたわけでもない『感覚の名残り』みたいなものが、読んでいる間僕らにもうっすらと伝わってくる。鋭敏な世界の捉え方をするが故に、描写された五感を自分の感覚として捉え直すのではなくて、登場人物たちが感じたものそのものの残滓が文字を通じて僕らに伝わってくるような感じがする。
それはまさに、夢から覚めた直後みたいなものかもしれない。夢の中では、直接見たり聞いたり触ったりしているわけではないのに、夢から覚めた直後は、それらの感覚の残滓が体中に漂っているような感じがする。朝井リョウが描く五感は、そういう感覚を読者に届ける。なかなかそんな描写の出来る作家はいないと思う。

感想

一番好きなのは「在校生代表」かな。送辞だけ(ではないけど)で物語を完結させ、しかも送辞でそんなこと言っちゃうのかよ!みたいなことを自然に描写しているところが凄く好き。
「寺田の足の甲はキャベツ」も凄く好き。これは本当に泣きそうになった。
「四拍子をもう一度」は、ストーリーの展開という意味では一番絶妙かな。神田の想いとストーリーの展開が絶妙で、巧いなと思った。ストーリー展開で言えば「エンドロールが始まる」も素敵。
「屋上は青」は、主人公の女の子に凄く共感できてしまう話で好き。
「ふたりの背景」は、正道くんのキャラがよかったなぁ。
「夜明けの中心」は、はっきりした切なさが、この作品の中では結構異質で印象に残った。
朝井リョウは、本当に凄い作家です。是非とも読んでみて下さい!

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