約束の森(沢木冬吾)の書評・感想

1042views黒夜行黒夜行

このエントリーをはてなブックマークに追加
約束の森

元警視庁公安部所属の刑事で、様々な理由があって刑事を辞めその日暮らしをしている奥野侑也は、かつての上司である太田経由で侑也に接触してきた緒方という、同じく公安部所属の刑事から、ちょっとした仕事を依頼されることになる。
それは表向き、「モーターモウテル・光芒」と言う名のホテルの従業員として働く、というものだった。
そのホテルは、警察関係者が秘密裏に使う場所のようで、緒方が何を目論んでいるのかさっぱりわからなかったが、とりあえず侑也はその土地で暮らせばいい、ということのようで、太田からの紹介だということもあって受けることにした。
しかしまさか、見知らぬ他人と共同生活だとは思わなかった。
住居としてあてがわれたのは、サイロというちょっと変わった建物だった。侑也一人で住むものだと思っていたら、そこに若い男女も一緒に住むのだという。
葉山ふみと、坂本隼人だ。
緒方の説明によれば、この三人で家族として振舞え、とのことだった。ふみはともかくとして、隼人はなかなか厄介そうな男で、やはりというべきか、初めの内三人は、ぎくしゃくとしたまま過ごすことになった。
緒方は、『N』と呼ばれる組織を追っているという。それを聞いて侑也は、この作戦のきな臭さを嗅ぎとる。
何故なら、かつて公安部にいた侑也にとって、『N』とは実在しない組織の通称であったからだ。その『N』が、実在すると緒方は思っているのだろうか?
ともかく、三人の生活は始まった。いや、三人と一匹だ。
侑也はホテルのオーナーから、ずっとほったらかしにされていたドーベルマンを譲り受けていた。血統書もあった、かなり有能なドーベルマンのようなのだが、長年適当に放置され、また虐待されたような痕も残る実に痛々しい佇まいであった。かつて警察犬を調教の手伝いをしていた侑也は、マクナイトという名のそのドーベルマンを引取り飼うことにしたが、当然というべきか、人間への不信感が強く、なかなか懐こうとしない。
侑也もふみも隼人も、それぞれ与えられた役割を着実にこなしていきながら、日々が過ぎていった。その過程で、行き場のない身寄りである三人の生い立ちや、それぞれが持つ能力や欠点などが少しずつ分かっていく。
状況は、相変わらず動かない。次第に彼らは、本物の家族のようになっていくが…。
というような話です。
これはなかなか面白い作品でした。この作家の作品は昔一作読んだことがあったんだけど、あんまり好きになれない感じだったのだけど、なんか評判の高かったこの作品は、確かに評判通りなかなか良い作品だと思いました。
先に、僕が思う欠点をいくつか挙げようと思います。
まずは、伏線というかネタの配置の仕方がちょっと下手かな、と。別にこの作品はミステリじゃないんで、そういう部分が下手出も別にどうってことはないんだけど、明らかに不自然とか、あぁきっとこれはあとでこういう展開になるんだろうなぁ、というのが結構バレバレ(普段読んでてそういうことにまるで気付かない僕でさえも)なのが、ちょっと残念だったかな、と。
あと、本書は最後の最後でなかなかアクション的な感じの展開になっていくんだけど、そこが若干都合が良すぎるなぁ、という点。確かに盛り上げるためには、危機一髪!というような展開が素敵だけど、でもそれはうまくやらないとただ都合がいいだけの展開になってしまう。本書は、若干そういう部分があって、だって、あれだけの状況普通はくぐり抜けられませんって。そこの説得力みたいなものが、もうちょっと欲しかったかな、という感じがしました。

感想

まったくの赤の他人が少しずつ様々な経験を経ることで、血のつながりを超えた『家族』になっていく過程が凄く良い作品だと思います。この作品はなんとなく男臭い(銃をドンパチしたり、裏の世界の人たちがわらわらしたり)作品のように見えちゃう気がするけど、全然そこまででもなくて、最後の方の怒涛のアクション的展開を除けば、傷ついた彼らが徐々にお互いを信頼していく過程を描いていく心温まる作品です。是非読んでみてください。

約束の森

約束の森

  • 沢木冬吾

関連まとめ

本のまとめカテゴリー


コメントを書く