功利主義者の読書術(佐藤優)の書評・感想

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功利主義者の読書術 (新潮文庫)

本書は、佐藤優による、「功利主義的に本を読み解いた結果としての書評」をまとめた作品です。
冒頭で著者は、こんなことを書く。

『読書には、大きな罠がある。特に、読書家といわれる人がその罠に陥りやすい。読書はいわば「他人の頭で考えること」である。したがって、たくさんの本を読むうちに、自分の頭で考えなくなってしまう危険性がある。
娯楽のための読書ならばそれでもいい。それについては、楽しい本を自己流に読めばいいので、特に読書術など必要とされない。したがって、本書が想定する読者は、娯楽を目的とする人々ではない。』

その上で著者は、様々な本を「功利主義的に読む」ことにこだわる。本書では、『役に立つ(あるいは立つとされている本)』はあまり紹介されない。そうではなくて、『役に立つとは思われていない本』から『いかに役に立つ知識を得るか』という観点から本を読む姿勢について書かれている。後でどんな本がどういう知識を得られる本として紹介されているのか挙げるが、聖書や古典作品から芸能人の告白本まで様々である。

『役に立つとか、功利主義というと、何か軽薄な感じがするが、そうではない。われわれ近代以降の人間は、目に見えるものだけを現実と考える傾向が強い。しかし、目に見えるものの背後に、目にみえない現実があると私は信じている。思いやり、誠意、愛などは、「これだ」といって目に見える形で示すことはできないが、確実に存在する現実だ。愛国心、神に対する信仰などもこのような目に見えない減じるなのだと思う。
プラグマティズム(実用主義)や功利主義の背後には目に見えない真理がある。読書を通じてその真理をつかむことができる人が、目に見えるこの世界で、知識を生かして成功することができるのである。この真理を神と言い換えてもいい。功利主義者の読書術とは、神が人間に何を呼びかけているかを知るための技法なのである。』

と、こんな風に書かれているので、僕はてっきり本書は、『どうやったら功利主義的な観点で本を読むことが出来るのか、その技術的指南の本』だと思っていたのだけど、そうではなかった。本書は、実際に著者が読んだ様々な本を通じて、功利主義者である著者自身がどんな知識をそこから読み取ったのか、を主眼にした書評集である。
本書の巻末で著者は、何故マニュアル本や実用書を挙げなかったという説明で、こんなことを書く。

『一見、役に立たないように見える本の方が、危機的状況においては役に立つからだ』

本書で紹介されている本と、著者による書評の話は、なかなか難しいものが多くて、同じ本を時間を掛けて功利主義的に読書をしたとしても、僕が同じような知識を汲み取ることが出来るかはちょっと怪しいものだけれども、「目に見えるもの」を扱って「すぐに役立つ知識」を提供するマニュアル本や実用書ではなく、「目に見えないもの」を扱って「すぐには役立たない知識」を提供する本にこそ、実際上の知恵は眠っているのだ、という意見は、なるほど確かにそうかもしれない、という風に思えました。
また、本書の解説を書いている酒井順子氏は、こんなことを書いている。

『だからこそ佐藤さんは、本の読み方を通じて、「世界には無限の視座が存在していることを想像せよ」と、我々に示唆します』

感想

個人的に読みたいなと思った本は、山本直樹「レッド」、カレル・チャペック「山椒魚戦争」、東郷和彦「北方領土交渉秘録」の三冊かな。特に「山椒魚戦争」は、なんかすげぇ変な話で、とても気になる。
個人的には、相当な教養に裏打ちされたかなり中身の濃い内容だと思うので、凄く難しさを感じたのだけど、それは僕の教養のなさが原因なので本自体の問題ではないでしょう。「功利主義的に読書をする」というのは、なんとなく味気ないような気もしてしまうけど、そういう訓練を意識してみるのもいいかもしれない、と思えました。マニュアル本や実用書ばかり読んでしまうなぁ、という方は是非読んでみるといいかもしれません。

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