ヒロシマ 壁に残された伝言(井上恭介)の書評・感想

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ヒロシマ ―壁に残された伝言 (集英社新書)

本書は、NHK広島放送局のディレクターだった著者が取材した、原爆投下から50年後に発見された『伝言たち』について取材し、番組として放送した経験を元に書かれた作品です。
かつて原爆資料館にも展示されていた、菊池俊吉氏による「被曝の伝言」という有名な写真が存在する。これは、フィ来るが高価だった当時、軍の委託による仕事を多く請け負っていた菊池氏が文部省から請け負った原爆投下直後の広島を撮影して欲しいという依頼の際に撮られたもので、広島市袋町国民学校西校舎の壁に書かれた「被災者同士の伝言」が映されている。爆心地からわずか460メートルというところに位置したこの小学校は、当時としては最新の技術によって建てられた鉄筋コンクリート三階建てで、木造部分はすべて吹き飛んだものの、コンクリート部分は残った。屋根のある建物がほとんど残らなかった周辺地域において、その小学校は臨時の救護所として使われ、多くの人が行き交う場所であった。そこで、人を探す伝言、誰かに何かを託す伝言、そうしたものを被災者同士が書き残した。
写真でしか存在しなかったその『伝言』が、50年後奇跡的に発見された。
当時と同じ校舎を使っている袋町小学校の壁がたまたま剥がれ落ち、その下から『伝言』が見つかったのだった。
様々な偶然が積み重なっての発見だった。もし何かの要素がほんの僅かでも違っていたら、この発見には至らなかっただろう。ちょうどそのタイミングでNHK広島にいた著者は取材を開始し、壁を剥がして別の伝言がないか探す調査の取材をしたり、あるいは判読された伝言に関わる人々を探す取材を開始した。
50年経って現れでたいくつかの伝言。情報とも呼べないようなほんの僅かな手がかりから取材を進める著者は、その僅かな伝言の発見に端を発する様々な『想い』を目の当たりにすることに…。
というような話です。
心にグッと届く作品でした。僕は広島に行ったこともないし、原爆に関する知識も正直少ない。こうして本を読んだりでもしない限り、日常の中で原爆について意識する機会というのはほとんどありません。また、原爆に関する本があったとしても、それはやはり『かつてこんなことがあった』というものが多いのだろうと思います。もちろん、それはものすごく大事で、永遠に後世に伝えていくべきものです。でも、何も経験していない僕たちのような世代にとって、何の経験もないままその存在だけを意識させる『使命感』は、ちょっと持て余してしまう。それは、ある程度僕の正直な感想で、『伝えなければならない』という『使命感』だけでは、それをどう扱ったらいいのか困ってしまうところがある。
過去と現在を繋ぐ何かが欲しい。
本書は、まさにその役割を担っているのではないか、という感じがします。僕は、この『伝言』発見のニュースについてまるで記憶がないのでリアルタイムでは知らないのですけど、こうやって50年ぶりに発見された伝言を通じて人々と関わっていく中で、それまで過去だけしかなかったものが現在の側面も持てるようになる。そんな気がする。

感想

東日本大震災が起こって1年と少しが経ったけど、今あの東日本大震災における個々人の様々な想いや経験を『伝えなければ、残さなければいけない』と感じている人は、そう多くないと思うんです。むしろ、『伝えたい、残したい』という感じではないでしょうか。僕は、その差は大きいと思っています。50年以上も昔の出来事、しかも僕たち自身は経験していない事柄について、『伝えたい、残したい』という感情を抱くことは、正直なかなか難しい。でも、この作品は、その手助けを少ししてくれている、そんな感じがします。『使命感』ではない形での『未来への伝言』が、いつまでも続いていけばいい。そんな風に思いました。
50年越しに届けられた『伝言』と、それによって引き起こされた様々な想いや行動。年月が風化させない様々なものを引き出した出来事が描かれた作品です。是非読んでみてください。

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