神の手(久坂部羊)の書評・感想

1078views黒夜行黒夜行

このエントリーをはてなブックマークに追加
神の手 上 (幻冬舎文庫)

本書は、『安楽死』をメインのテーマにし、『医療崩壊』の現実に鋭く斬りこみながら、現在の日本の医療について深く考えさせる作品。
市立京洛病院の外科部長として、患者やスタッフから絶大なる信頼を得ている白川は、21歳のがん患者を受け持っていた。古林という青年で、肛門がんの末期。手術によってガンを切除し、その後放射線治療もしたもののうまくいかず、ガンは全身に転移。もはや助かる見込みはほぼない、という状況だ。
古林の母親である康代は、テレビでよく顔を見かけるエッセイストであり、今薬害脳炎の裁判にかかりきりになっていて、息子の看病にもほとんどこない。古林の面倒を見ているのは康代の妹であり、その妹はもう看病の限界に来ていた。
古林は、極度の激痛に襲われている。白川はその苦痛を出来る限り和らげるためにあらゆる方策をとったが、既に打てる手は一つしかなく、それは薬で意識を薄れさせるというもの。しかしこの薬には、呼吸不全に陥る副作用があり、量を間違えると危険だ。白川はギリギリのラインを見極めながら、どうにか患者の苦痛を取り去ってやりたいという一心で必死の延命治療を続けていた。
実は康代の妹から、安楽死の打診を受けていた。しかし、白川には、それを決断することは出来ないでいた。
安楽死は一般に高齢者に必要だと思われているが、実は若者にこそ必要なものだ。高齢者は体力がないため、苦痛と闘っているうちに亡くなってしまう。しかし、耐え難い激痛に襲われ続けながら、体力だけは万全の若者には、そのまま死に至るという可能性がほぼない。治療の見込みがまったくない状況で、果たして患者にこの苦痛を味わわせる意味があるのだろうか?
そして結果的に白川は、安楽死に手を貸した。
この一件を機に、白川の人生は大きく変わることになった。
謎の怪文書が届いたために、院内で委員会が作られ、白川の案件について調査されることになった。さらに、ほとんど面会にも来なかった康代が、テレビで白川をまるで殺人者であるかのように告発したのだ。京都府警も捜査に乗り出し、白川も取り調べを受ける。そして結果的に白川は、謎の圧力のお陰で司法の裁きを受けずに済んだ。
しかしそれで終わらなかった。それは、日本に「安楽死法」を作ろうとする大きな流れの小さな小さな第一歩に過ぎなかった…。
というような話です。
これは凄かった!医療というのは、様々な問題が山ほど絡みあった分野だろうけど、本作では安楽死に限らず、医療全般の問題がストーリーの中で様々な形で埋め込まれていて、それが本当に考えさせる。もちろん、物語としてもべらぼうに面白くて、凄い作品を読んだなという感じです。
まずはやっぱり、安楽死に関する様々な事柄に触れようかな。
本作のメインのストーリーの一つが、やはり安楽死に関するもの。その背後にJAMAという組織の存在があって、そのJAMAがどんな風に旧態依然とした医療業界を改革しようとしているのか、というのがもう一つの柱になるのだけど、とにかくこの安楽死に関する議論がまず凄い。
白川が行った安楽死が一つの引き金になって、日本全体で安楽死に関する議論が巻き起こるのだけど、本書ではもちろん、賛成派・反対派両方の意見がまんべんなく語られることになる。
そのどちらともに、ある程度の納得が出来てしまうのですね。

感想

一つだけ思うことは、医師にはもっとまともな環境が与えられるべきだと思う。それが、高給でも余裕のある生活でも能力を必要としない仕事からの解放でも何でもいい。とにかく、真面目で患者思いの医師が損しない仕組みになって欲しいと思う。そうでなければきっと、日本の医療は崩壊してしまうだろう。そのためには、僕ら医療を受ける側ももっと変わらなければならない。医療業界における様々な問題を、僕ら医療を受ける側も同じだけ知っていなければダメだろう。
そういう意味でも、本書は実に素晴らしい作品だと思います。物語も絶妙な面白さで、さらに考えさせられる。海堂尊の医療小説ほどエンターテインメントではないと思うけど、「もし安楽死法制定を目論む勢力が存在したら」というifを大前提にしたリアリティが圧倒的な物語だなと思います。長い物語ですけど、一気に読めます。自分だったらどうするか、問われる場面に溢れています

関連まとめ

本のまとめカテゴリー


コメントを書く